
特集 憲法改正
2013年5月21日(火)13時から、東京都千代田区の参議院議員会館で、「『ナチス台頭を許さないために 立憲主義の意味を問う市民集会』 ~立憲主義を破壊し、憲法改悪を容易にする96条改憲に反対する5・21院内集会」が行われた。ゲストとして招かれた清水雅彦氏は、憲法とは国に対する統治規定であると強調し、自民党の掲げる憲法96条改正案の問題点を指摘した。
集会の冒頭、社民党参議院議員の福島みずほ氏は、「自民党改憲案の最大の問題は、基本的人権を巡る議論にある」とした。その上で、天賦人権説を改める動きを問題視し、「少なくとも、天賦人権説を否定することは、国際人権規約や国連の人権宣言を否定するものである。自民党は、戦前の法律留保論に立っているのではないか。自民党の改憲案によって、基本的人権が脅かされる」と指摘した。
日本共産党参議院議員の井上哲士氏は、自民党改憲案によって、本来、権力を縛るものとして機能する憲法が、権力側が国民を縛るものに変質してしまう点を危惧し、改憲派からも反対の声が上がっている状況や、国民の間でも、憲法を守り、活かしていく動きが広がっていることを説明した。
日本体育大学准教授の清水雅彦氏は、96条改正案の問題点を解説する中で、そもそも憲法が、人権規定よりも統治規定に主眼が置かれ、国家権力を制限するためのものである点を解説した。
次に清水氏は、選挙によって政権を握り、ワイマール憲法を書き換え、人権を侵し、戦争へ踏み出したナチスドイツを見た世界各国が、第2次大戦後、アメリカ独自の制度であった違憲審査制を導入していった歴史を説明し、「ナチスの経験から、多数派が常に、絶対的に正しいというわけではないことを、各国が認識した。それによって、多数派の暴走を防ぐため、アメリカ独自のものであった違憲審査制が、各国で導入されたのである」と説明した。
続けて、この制度が、多数決で作られた法律であっても、憲法に適合した法律でなければ、裁判官が違憲無効判決を下せるものである点を指摘した。また、民主主義、国民主権、平和主義を人類普遍の原理として謳っている日本国憲法前文を例に挙げ、「国会の多数派であっても、天皇主権国家や独裁主義国家を創造したり、国民主権を否定することはできない」とし、「仮に、2/3以上の賛成、国民投票によって過半数の賛成を得ても、憲法の原理に反していれば、改正はできないだろう」と述べた。
96条改正の目的を、改憲手続きの厳格さや、国民の意志の反映にあるとする自民党の説明に対しては、諸外国と比較して、改憲手続きが厳格ではない点や、これまで住民の意思を拒んできた自民党のあり方を問題視した上で、「現在、1票の格差問題で、自民党に対しては、違憲判決や違憲判決状態が下されている。国民の意志の反映を謳うのであれば、まずは、国民の意思を反映する選挙制度に改めるべきである。国民の過半数が96条改正について、反対している世論調査も、各新聞社で出ている。安倍政権は、もっと民意を汲むべきである」と述べた。
「市民革命の経験がなく、お上意識の強い日本国民は、今日まで法治主義的な発想が強く、法律だから守らないといけない、と思考停止状態になっている」と語る清水氏は、「民主的に決めたから、従わないといけないという意識が、一般的にあると思うが、日本にも違憲審査制が存在する。通常は、議会制民主主義の下、多数決に頼らざるを得ないが、多数決が常に正しいわけではない。民主主義的に決めた事柄でも、立憲主義の観点から是正する場合があるという、認識が必要」と述べ、「96条を変えさせないためには、世論の形成が必要である」とした。【IWJテキストスタッフ・富山/奥松】
■出席者 糸数慶子議員(無所属)、福島みずほ議員(社民党)、井上哲士議員(共産党)、山内徳信議員(社民党)、笠井亮議員(共産党)、近藤昭一議員(民主党)、辻元清美議員(民主党)、吉田忠智議員(社民党)
■ゲスト 清水雅彦氏(憲法学者、日本体育大学准教授)
■主催 2013年5・3憲法集会実行委員会
■関連記事
- 2013/05/08 「96条改正は、政権の都合によって国民が振り回される」 ~「憲法96条改正」の是非を論じる公開討論会
- 2013/04/25 立憲主義崩壊 96条改正で、時の政権が憲法を自由に変える国へ ~東京共同法律事務所 憲法講演会
- 2013/04/24 「自民党改憲草案とは、軍事国家の体系を示したものだ」 ~憲法学習会「自由が危ない!!国防軍だけじゃない 自民党改憲草案の危険」
- 2013/03/12 憲法96条の改正は、憲法総改正の第1歩 ~自民党憲法改正案についての鼎談 第4弾